カフェ分福

高円寺のルック商店街にその店は軒を連ねる。フランスをテーマとしたカフェだ。

このカフェは秋がよく似合う。夏場だとしても、店内に入ると、不思議と秋の肌寒い外から温もりのある部屋に入った時に感じる安心感を覚える。薄暗いオレンジ色の柔らかな光が店内を包む。テーブル、椅子、ドアの把手、テーブルの上に置かれたオブジェ、一つ一つが興味深く映る。とても落ち着いた気持ちになる。


この額に配置されたオブジェクトに暫く見入ってしまう。そこになんらかの意味を見出そうという気持ちは起きない。ただ無心に見入ってしまう。

ちょうど一年くらい前の同じ額の様子。なるほど、用いられているオブジェクトはほとんど同じようだ。しかし貼られている写真が異なっている。この額の中の「絵」は固定的なものではなく、移ろいゆくものであるらしい。川の流れになんらかの意味を見出そうとしてもナンセンスである。この「絵」についても然りだ。この絵からは、この「絵」を「描いた」人、おそらく店主の、その時に感じたインスピレーション、精神的なエネルギーの波のようなものを感じるべきなのだろう。とくに意気込まなくても、あなたはこの絵やその他のいろいろなオブジェクトに自然と目が行き、気づくと無心になっていることだろう。そしてその無心になったタイミングこそが、あなたと、このカフェの波長が共鳴し、調和したタイミングであり、それは至福のひとときを享受することを意味する。


村上春樹の「使いみちのない風景」、夏目漱石の「夢十夜」、カフカの小説、本の選定が私の好みと近しいかもしれない。


パンケーキ。海塩が効いていて、微かな甘さが立体的に立ち上がってくる。優しい味だ。塩、砂糖、粉等の材料にこだわりがあることが、感じられる。バターが端に添えてあるところに、気遣いを感じる。

ナイフとフォークには、「KAY BOJESEN」(カイ・ボイスン)とある。デンマークのデザイナーだ。公式サイトによると「発売から50年以上、品質の良さと、人を魅了するシンプルなデザインはデンマークの王室御用達として、各国のデンマーク大使館で、そしてデンマークの人達にだけでなく、北欧をはじめ世界各国で多くの人々に愛され続けているカイ・ボイスンのカトラリーです。」とのこと。紅茶の器にはスポードが用いられていたり、見たことのないセンスの良い器が用いられいたり、器にも一つ一つ思い入れがあるように感じられる。

このカフェは、食べ物だけでなく、紅茶をはじめとした飲み物がとても美味しい。ひとつひとつ丁寧に淹れてくださっている。この日頼んだマサラチャイはスパイスの甘い香りがし、ミルクティーのようなまろやかさに、遠くの方からピリッとしたスパイスのやわらかな辛味がやって来たような、味がした。


スコーンは柔らかく、クリーミーな優しい味。


「どうぞお気をつけて」店主の声が聞こえる。やって来ては去っていく無数の人々を出迎え、送り出す。一期一会。全ては移ろいゆく。だからこそ一回きりを大切にしているように感じられる。心が疲弊している時であっても、このカフェでひとときを過ごせば、不思議と前向きな落ち着いた心持ちになれることでしょう。

店舗情報

名称:カフェ分福
住所:東京都 杉並区 高円寺南 3-23-18
高円寺駅から徒歩8分。新高円寺駅から徒歩5分。
お店のページ:http://blog.goo.ne.jp/getduffy_photolife

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